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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(あ)1333号 判決

主文

本件上告は棄却する。

理由

弁護人長谷川安雄の上告趣意は、判例違反をいうところ、所論引用の福岡高裁判決は、昭和二八年法律第一七二号により、刑訴法三八二条の二が追加規定される以前のものであるから、本件とは事案を異にして適切ではなく、所論引用の大阪高裁判決は、被告人が、司法警察員および検察官に対し、刑の執行猶予言渡の障害となる保護観察付執行猶予の前科の存在を供述せず、他方、被告人の犯歴の記録、調査を担当する区検察庁の担当係に、長期欠勤者や死亡者があったために、既決犯罪通知書作成事務が渋滞して被告人の前科の記載が遅延し、そのため、前科調書に右前科の記載が脱漏するにいたった場合においては、一審弁論終結前に、法律上刑の執行猶予言渡の障害となるベき前科に関する証拠の取調を請求することができなかったのは、同条にいう「やむを得ない事由」による、とするものであるが、原判決は、何らこれに反する判断をしているものではないから、所論は、理由がない。(なお、被告人が、区検察庁検察事務官の取調に対し、無免許運転で懲役刑に処せられ刑の執行猶予の言渡を受けたことを秘匿し、前科は、無免許や酒酔い運転で二回罰金刑に処せられただけである旨供述し、他方、区検察庁事務官が、地方検察庁犯歴係に電話照会して作成した前科調書には、道交法違反による罰金の前科二犯のみが記載され、これが一審公判廷で取り調べられてその判決の言渡があった後、たまたま、被告人の前科を記憶していた係官により、右執行猶予付懲役刑の前科の存在が判明し、検察官がこれを知るにいたった場合においては、一審の弁論終結前に、刑の執行猶予言渡に影響を及ぼすべき前科に関する証拠の取調を請求することができなかったのは、刑訴法三八二条の二第一項にいう「やむを得ない事由」によるものと解するのが相当である、とした原判断は正当である。)

また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 村上朝一 裁判官 小川信雄)

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